2018年3月26日月曜日

蚊帳の再利用

エアコンが普及した現代の日本では、
蚊帳を使っているお宅も多くはないかと思います。
しかし、昔はどの家にもひとつやふたつはあったものでした。

これは、頂き物の古い蚊帳です。
漆の技法のひとつ、乾漆(かんしつ)は、
麻布を糊漆で貼り重ねて形を作ります。
布目に糊漆が入るくらいの適度の隙間のある布が適しているので、
その点、蚊帳は最適なのです。

かつてうちの近隣地区では、
古い蚊帳を細かく切って土壁の木舞(こまい)に入れて補強したので
家を新築するお宅に古い蚊帳をあげる習慣があったそうです。
現在はうちのような田舎でも、土壁のある日本家屋を建てる人もいませんが、
古い蚊帳を持っている家はほとんどないようです。
なので、この蚊帳は関東在住の先生からの頂き物です。

どうして木綿ではなく麻でなければいけないのか?
理由は、繊維の構造の違いです。

木綿は繊維の中まで漆が染みてしまうことで柔軟性が失われ
器物が丈夫にならず、壊れやすい乾漆製品になってしまうのです。
麻は、繊維の中の空洞まで漆が染みないことで柔軟性が保たれ、
つまり、丈夫で割れにくいものができます。
苧麻(からむし)繊維も同様です。

麻布は木のお椀の縁の補強にも使われていますが、
値段を下げる目的と、布目を模様として見せるために
寒冷紗(木綿)が貼られているものもあります。

かつて青森に乾漆用の数種類の荒さの目の麻布を織っていた会社がありましたが、
値段が相当高かったこともあってか、相当前に廃業されてしまいました。
現在、漆屋さんで乾漆用に売られている麻布は中国製のはずですが、
やはり値段は決して安くありません。

もしお宅に使っていない蚊帳があって、
ボロボロだから捨ててしまおうと思われているなら
漆を教えている学校などに問い合わせて
寄付すると喜ばれるのではないかと思います。

この蚊帳は少々モダンで、こんな更紗が使われていました。
隅の補強布もなんだか素敵な模様です。
端布の利用がお洒落です。

そして、いくつもの継ぎもされていました。
一種のモダンアートのようですね。