2017年5月30日火曜日

野蚕の糸引き

豊橋のイベントにも出展していたアトリエ・トレビさんは、
野蚕(やさん)のスペシャリストです。
絹のことになるとお話が止まらず、いつもいろいろ勉強になります。
見本として展示されている野蚕繭です。
茶色いのがヨナグニサン(Attacus atlas ryukyuensis)とその仲間、
緑色がヤママユ(Antheraea yamamai)、
金色がクリキュラ(Cricula trifenestrata )です。

下の籠に入った白いのが、我々に一番馴染みの深い絹の素材、
桑の葉を食べる「家蚕(かさん)(Bombyx mori)」です。
家蚕にもたくさんの種類があります。

この他にもムガ蚕(Anthraea mylitta
サク蚕(Antheraea pernyi)
エリ蚕(Samia cynthia ricini)など様々な野蚕があり、
そのうち、タサール蚕(Anthraea mylitta ほか35種)については、
いろいろ説明させていただきました。
この柄の部分もちゃんと糸にされます。

さて、2月のラオスで驚愕。
中の蛹を食べるのだそうです。

インドのタサール繭よりかなり小ぶりですが
タサール蚕の糸は高級織物素材です。
「糸は取らないの?」と聞くと、これから糸ができることも知らないようでした。

お値段を聞くと1キロ2,000円くらい。
養殖でなく山奥から取ってくるそうで、
観光地の市場とはいえ、ラオスでは高級食材でしょう。

もちろん繭の中身は持って帰れませんから、
小さい包丁を借りてさっそく切開作業開始です。
繭のサイズのいっぱいいっぱいまで蛹が入っているので、
蛹を傷つけないように硬い繭を切るのはかなり大変でした。
うっかり蛹に傷をつけると、黄色いベタベタの汁が出てきます。
(虫嫌いの方ご注意)

なるべく糸を長く取りたいので、
最小の切り口で蛹を取り出そうと四苦八苦していると、
向かいの店のおばちゃんまで「そうじゃない」と出てきて、
さっさと縦に数カ所切り込みを入れます。
いやいやいや、蛹じゃなく繭が欲しいんだと言っても、
これから糸ができると思っていない方々には意味がわからないようでした。
(作業に必死だったため、作業中の写真はありません)
そして、市場で座り込んで繭を包丁で切っている我々の様子に
不思議そうに見ていく通行人。

ちなみに、市場で繭のまま売っているのは、
この方が日持ちするからだそうです。

空港ではスーツケースを開けられましたが、中に虫がいないことを見せOKでした。
インドのタサール繭(半養殖)と比べると小粒で硬く、色も黄色っぽいです。
左がラオス、右がインドの半養殖品。

さて、解舒実験です。
お湯だけ、重曹水のお湯では柄の部分以外はほぐれませんでしたが、
炭酸ソーダのお湯では簡単にほぐれました。

インドでは柄の部分(ナーシー)は分けて糸にするそうですが、
量が少ないので一気にやってしまったところ、
ナーシーの方が圧倒的に先に柔らかくなり
逆に面倒くさくなりました。
残念ながら繭は切れているので、生糸にはなりませんが、
できる限り長い糸を引いたものが左下、
それ以外は右の塊。
柄、繭表面、内側、もっとも内側では糸の質が全く異なります。

このタサール風の蛾はAntheraea frithiではないかという話です。

ついでに、あるラオスの染織工房では、
蛾が羽化したあとの繭を、捨ててしまうというので
もらってきていたのをほぐしてみました(右)。
日本の家蚕と比べて小さく、毛羽だっています。
東京のKさんが育てたエリ蚕の繭(左)と比較してみました。

エリ蚕は吐き出す糸が短いので生糸にはならないそうですが、
煮なくても指でつまめば簡単に繊維がほぐれます。

それに比べてラオスの家蚕繭は、一見柔らかそうに見えてたのですが
煮てもなかなか全部がほぐれないばかりか、蛹の抜け殻のゴミも多く、
糸にせず捨ててしまうというのも理解できます。

繊維自体はエリ蚕の方が太くてしっかりしています。

そして、数年前から岩手の漆山に大発生しているのがこれ。
「スカシダワラ」とも言われるクスサン(Caligula japonica)の繭です。
去年は重曹で長時間煮てみましたが、ちっともほぐれません。
今年は炭酸ソーダ(ソーダ灰)でやってみました。

しかし、時期的にほとんどが地面に落ちていた繭だったため、
繊維をほぐそうとしてもブチブチに切れてしまいます。

かつて釣り糸に使っていたというくらい丈夫なはずのクスサンの糸です。
できれば繭ができる夏の終わりから秋に採取したいところです。

これに似ていると思われるのがクリキュラです。
インドネシアで養殖したものを少量いただいていたのですが、
クスサンに比べるとはるかに簡単にほぐれました。
そして、黄色で太くて強い!

「クスサン」はその名の通り楠、桜、ケヤキ、そして漆の木にもつくのですが、
「クリキュラ」はウルシ科のマンゴーにもつくそうです。
インドではかつてマンゴーばかり食べさせた牛の尿から黄色の染料
(インディアン・イエロー)を作っていました。
クリキュラの黄色がマンゴー由来としたら
漆についたクスサンと、他の木についたクスサンの繭の
質や色の差がわかったら面白そうです。

2017年5月29日月曜日

ガラ紡と三河木綿

5月の連休中、豊橋市のほの国百貨店で開催された
『ガラ紡がカンボジアから里帰り』に行ってきました。

三河木綿の方が協力されているカンボジア・コットン・クラブと、
帆前掛け専門店のエニシング
そして、野蚕シルクのアトリエ・トレビの共同催事でした。


ガラ紡とは、日本で考案された紡績方法で、
私が最初に見たのはトヨタ産業技術記念館です。

水力を使って撚りの緩い糸を作るその機械は、
そのガラガラという音も心地よく、不思議と見飽きず、
気づいたら結構な時間になっていて、
記念館の展示の最後の方まで見られませんでした。


ここには手回し式のガラ紡機械見本があり、
実際に動かしてガラ紡のしくみを体験することができました

筒がアクリルでできているので、
中に詰まっている綿の様子がよくわかります。

会期中にはほぼ毎日お話の会が開催されており、
私が行った日は「三河の木綿と棉作り」の日でした。

カンボジア・コットン・クラブでは
使わなくなった三河ガラ紡の機械をカンボジアまで運び調整し
それを使って織物を作って、地元の人たちの生活をささえようという試みです。
今回はカンボジアから現地の工場で働く二人の姉妹を招聘しており
テレビにも紹介されたこともあって、多くの方が来られていました。
織物工場の関係者だった方々を中心に、尽力されている様子を
大変興味深く感じましたl。
私は豊橋に行ったのは初めてだったのですが、
繊維業が盛んな土地だということを今回改めて納得しました。

会場ではいろいろお話をしたり、織りや棉の種出しをやっていたため
珍しくほとんど写真が撮れませんでした。

2017年5月21日日曜日

漆の花

去年のこの時期はブータン調査にでかけていましたので、
久しぶりの漆の花です。


うちにある漆の木のほとんどは丹波1号のクローン、
全て雄の木なので実がなりません。

クローンですが、成長に差があり、
花が咲いているものとまだ蕾のものがあります。

浄法寺から持ち帰った種から育った実生苗が
雌の木だったら実に期待できますが、
今年もまだ花が咲く様子がなし。
種から発芽まで3年かかっていますので、来年に期待します。

種ができたら、
丹波×浄法寺の性質を持つ苗ができることになります。
そして今年もまた1本がここまで育って枯れてしまいました。
昨年はそのすぐ後ろの木が枯れました。
この土地のすぐ近くに井戸があるため、
地下水脈が影響しているのではないかと思うのですが
原因は不明です。
元の木は枯れても、
横からどんどん萌芽が出てきて、苗は増える一方です。

GWの後半、岩手県の浄法寺の漆植栽地で苗を植えてきましたが、
桜の花は終わっていたものの、
漆の木はまだ葉っぱも出ていないような状態でした。
日本は狭いようで広いです。