2017年4月29日土曜日

ラオスの紙作り

ラオスには紙作りの文化もあります。
世界遺産の観光名所であるルアンプラバンの半島の中にも
紙工房があります。
お客さんに気づくと、さっそく実演してくれます。

ブルーシートを張った漉き船に水を入れ、
ネットを張った漉き簾を入れ、
あらかじめほぐしてある紙の繊維を漉き簾の中に流します。

それを両手の指を使い、ぱしゃぱしゃと均一に均します。

これを出せば紙はできますが、
ここでもう一工夫、植物をレイアウトします。


完成品はこれ、と見せてくれます。
こういう製品を照明器具や封筒などの製品に加工して販売もしています。
漉き簾一枚に紙一枚。漉き簾のまま乾燥させます。

繊維の原料はコウゾの仲間のカジノキだそうです。


空港裏の工芸村にも2件の紙工房があります。


そのうちの一件は、JETROの招聘で日本で研修を受けたそうで、
日本式のうちわまで置いてありました。


こちらは菩提樹の葉の葉脈に着色したもの。

菩提樹の葉は水に浸しておくと、きれいに葉脈だけ残るのだそうです。
幻想的です。

立体感のある製品は、店主の工夫で

粘土で原型を作り、セメントで型をとったものを使っているそうです。

もちろん中が空洞だと潰れてしまうので、
空間にも繊維を詰め込んでいます。

それに着色し、加工するとこんな感じ。

生命の木のイラストは、ボンドで絵を描いた上に
着色した砂を蒔いているそうです。一種の蒔絵です。

紙の原料繊維は、昔は山からとってきていたけれど、
今は専門の人から買っているそうです。

ラオスの紙の特性を生かした工芸品の制作が続くことを願っています。

2017年4月24日月曜日

キーカンにはマコー(6)

ラック染めもこのままではなんとも消化不良です。
現地で入手できたラックも手元にあるので、
ガイドのMさんの知り合いのヴィエンチャンの染め工房の方に
ラック持ち込みでの染めをしてくれそうな
ルアンパバン市内の染織工房を紹介してもらえないかとお願いしたところ、
幸い、引き受けてくださるところが見つかりました。

ルアンプラバン市内の外れ、この木の橋の向こうがその村です。
つまり、自動車は入れません。
町までの交通機関はバイクです。

この村も染織村で、あちこちの家に機が置かれています。

目的の場所は、たくさんの機が置かれている
PさんTさん姉妹の運営する染織工房でした。

ラックと染めるものを確認した後、さっそく準備に入ります。
Pさんはタイで購入したシルクの布を見て、端がほつれやすそうだからと、
仮縫いをしてくれます。
その間に妹のTさんがラックの計量です。
計量したラックを、お手伝いのDさんがさっそく砕きます。
この植木鉢のような素焼きの器は料理で使うすり鉢だそうです。

砕いたラックを煮立ったお湯に入れます。

染める布と糸は、水に浸して棒で叩き、水を浸透させておきます。

ラック液はグラグラ煮立った状態で漉します。
これは空港近くの村で入手していた3年くらい前のラックです。

濾すのに使っているのは、お米などを蒸す蒸しざるです。
布を絞り棒で押してさらに色を出します。

液を沸騰させたら、
第一弾の布を投入して煮ます。
先媒染なしのラックだけの染めです。

第二弾は、先媒染をしての染めです。
布を明礬(ヒンソム)水に浸します。

明礬はこの結晶状のものを使っていました。

そして、近くに生えていたウコンをスライス。

さらに潰し、それを明礬液に加えます。

その間に、最初の染めが完了したようです。

Dさんはいまいち色が気に入らないご様子。
やっぱりマコーを入手しなければダメだ、という話になります。

Tさんが、市場に行けばマコーが売っているから買ってきて、と、
我々の運転手に頼みます
もう時期的にマコーはないんじゃないの?という会話になりつつ
いや、どこそこの市場ならまだあるから!と細かく場所を指示。
その間にも作業は続きます。

次に、第二弾のラックを沸かしたお湯に投入です。
このラックは去年の秋に収穫された新しいものです。

グラグラ煮え立たせると、
先ほどの3年前のラックと違って、すぐに樹脂分が浮き上がりひとかたまりになります。

液を濾すと、ラックもひとかたまりになって出てきます。
これは濾すのも楽です。

Pさんも嬉しそうで、触りながらしげしげと眺めています。

染め担当のDさんの作業はテキパキ、そして仕上がりにも厳しい。
聞けば、彼女は、我々が数日前にラック染めができないと断られた
あの有名染織工房の染めのかつての責任者で、
3年前に体を壊してこの村に戻ってきたと聞いてびっくり。

Mさんは以前あの工房でラック染めをやっていたことを覚えていたので、
だから染めがダメになっちゃったのか、と。
そして私は2011年にルアンパバンに来た時に初めてあの工房を見学し、
染め場の写真も何枚か撮っていたのです。

帰国してからその時の写真を調べたら、確かにDさんがいました!
なんという不思議なご縁。

さて、運転手さんが戻ってきました。
あの、幻のマコーがついに目の前に!

やはり時期外れだから、残っていたのはこの2個のみだったそうです。
確かに、市内の朝市でも全く見かけていませんが、
サラダに入れて食べたりもするそうです。

果肉をスライスすると、中には大きな種が一個。
試しにかじってみると酸っぱいだけでなくかなりの渋みがあります。
酸度調整だけでなく、タンニンも含んでいるということでしょう。
後で、別の場所で入手した本を調べたら、
ウルシ科の木らしいということがわかりました。

かなりの酸度です。

スライスしたマコーはウコンと一緒に砕きます。

ここで運転手さんが一緒に運んできてくれた昼食となりました。

この村は、内戦で南ラオスから逃げてきた人たちで作られた村で、
元々、自分たちで綿を栽培し、それを染めて布を織っていたものの、
数年前に綿畑だった土地が安く買い取られてゴルフ場になってしまって、
綿の木も今は数本しか残っていない、と、木まで案内してくれました。

と、そうこうしている間に、先媒染作業はどんどん進んでいます。
先ほどの明礬、ウコン、マコーでの下染めです。

これでもまだ足りないようで、今度はタマリンドの実が出てきました。

もう、何がどれだけ入っているのかさっぱりわかりません(笑)

この液の中で加熱します。


取り出してみて

まだ足りないようで、今度はアナトーが出てきました。

さらにウコン追加。

今度はタマリンドの葉っぱ。
全て近くに生えているところがすごいです。

加熱した液を漉します。きれいですね。

再度布と糸を浸します。
それを一度乾燥させます。
作業の順番で色がわかるように、と準備していた中国の絹布も
気がつくと全部が一緒に入れられてしまっていました。
プロ魂です。

布が乾くのを待つ間に先ほどのラック液を再度加熱します。

そこに、ようやく糸と布を投入。
一気に色が入ります。

Dさんの顔にようやく笑みが浮かびます。

きれいに染まりました。

ざっと水洗いします。

糸の方もきれいに染まりました。
これがマコーの力でしょうか。

乾くとこんな感じになりました。
左のタイ絹布の上がマコーなどによる下染めをしたもの、下がラックのみ
同じ布でこれだけの差が出ました。

絹糸2種は工房にあったもので、左がベトナム、右がラオス産で、
ベトナム絹の方がツヤがあるので区別がつくそうです。
これは隣の木綿糸とともにマコー処理済み。
マコーがふんだんにある状態で染めたらもっと濃い色に染まるのでしょうか。

木綿糸の小さい束のうち色が濃いものは、茶綿に染めたものです。
溶けたラックを広げたものをお皿代わりにおいてみました。
Tさんも「キレイ」と言って写真を撮っていました。
Facebookにアップするそうです。

この工房にもかつてはラックを売りに来る人がいたのに、
ここ数年は来なくなってしまい、
ラック染めは観光客相手のお試し少量以外やっていないそうです。
Pさんは煮出し後のラックをずっと眺めていたので
あげる、と渡したら満面の笑み。
染めプロのDさんも、私にも少しちょうだい、と
割って持ち帰っていました。
日常様々なものを接着するのにキーカンが一番いいのだそうです。

色素を洗い流してしまっている生産者と
手に入らない染織関係者。
なんとかならないものだろうかと思います

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この調査は生き物文化誌学会さくら基金の助成で行われました。