2016年9月20日火曜日

北欧の生木の木工(岐阜県立森林文化アカデミー)

岐阜県には全国にも珍しく、木工関係の学校が公立私立を合わせて4校もあるそうです。
しかし、もちろん木工をやるとなれば立地はそれなりの場所。
岐阜県立森林文化アカデミーもその一つですが、
最寄り駅から徒歩10分というのは比較的便利と言えるでしょう。

しかし、それは旧JRの赤字路線が第三セクターになった長良川鉄道で、
本数は少なく、運賃も高く、乗り継ぎも不便なため
これまで訪問にも二の足を踏んでおりましたが、
JRと名鉄の岐阜駅から、アカデミーまで徒歩5分くらいの道の駅まで
バスの便(2時間に1本ですが)があると教えてもらいました。
JR岐阜駅から50分ほど、バス代は1,000円でお釣りがきました。

バス停のある「道の駅にわか茶屋」も、地元の野菜やお土産だけでなく、
木材やアクリル板端材、作業服が売っているという少々変わり種で、
少々時間を費やしてしまった後、トンネルを抜けてアカデミーへ。
看板も木、後ろも木
建物も木。贅沢な作りですね〜。

このウッドデッキの面積たるや!

今回の訪問の目的は、今年6月に
を出した、久津輪雅さんの北欧スウェーデンの木工報告会です。
(久津輪さんの許可を得てブログを書かせていただいています)

久津輪さんは森林アカデミーのほか、
NPO法人グリーン・ウッドワーク協会のメンバーでもあり、
生木を使った人力木工講座を全国で行っていますが、
スウェーデンはグリーン・ウッドワークが盛んな土地で、
現地の木工作家が主催する木工フェス"TALJFEST "(削り祭り)にあわせての
渡航だったそうです。

報告会の会場には今回の渡航の収穫品(?)が並んでいました。
木のスプーンと、これを作るのに使うHook Knifeです。
材料はカバ材が多く、塗装は亜麻仁油を使った油性塗料で、
色が欲しい場合は油絵具を使うそうです。
一番右が、壁などにひっかけられる伝統的な形で、
奥さんが現地ワークショップで漆を一度塗ったので、茶色くなっています。
(ワークショップも好評だったそうです)
カバ材は白く、一見柔らかそうに見えますが、結構硬くて丈夫です。

スウェーデンでのスプーンはもともと個人の食事用ではなく、
料理を取り分けるサーバーとして使われるので
大きめで、先端が平らになっているのだそうです。
これは本に掲載されているスプーンの写真。
生のカバ材を斧で割り、手斧で荒削りし、
Spoon Carving Knifeで削るという工程です。

スウェーデンのMoraという会社の製品です。
左2つの鞘に入ったものが木彫ナイフ、
右3つが通称Spoon carving knife、あるいはHook knifeと呼ばれる木彫刃物で、
右利き用、角度違い、両刃の3種があります。
Moraの製品は、日本ではアウトドア用品ショップで販売されており
それなりに定評があるものの、
工芸用の刃物はまだ十分普及していないということです。

スウェーデンの木工の本いろいろ。
アメリカで評判になった一番左の本
"Swedish Carving Techniques"の著者
Wille Sundqvistさんの息子のJoggeさんが
今回のTaljfestの主催者だそうです。


スウェーデン語はわからずとも、写真を見ているだけで楽しいです。


あれ、っと思ったら、最近は日本のノコギリもポピュラーなのだそうです。

スライドもお話も最初から興味深く、
イギリスのSpoonfestをはじめ、
グリーンウッド木工関係のフェスが世界3カ所で開催されるほど大流行中で
フェスの講師をはじめ、その全部を移動していた人がいるとか、
木彫スプーン業界の有名人やら、
一般人が全く知りえない世界の木のスプーン業界?の話題から、
現地木工学校や木工作家の工房、もちろんフェスの様子、
スウェーデンの伝統木工品の話などつきません。

中でも、生木の丸太を筒状に彫り、
底板は別に使ってはめ込んでおいて、
筒状にした木が収縮すると、底板を締め付けて取れなくなるという
木の性質をうまく利用したShrinkboxには感心。
また、北方民族博物館収蔵庫での写真には
自然の木の形をそのまま生かした家具や
独特の模様を施した凝った箱や、
不思議な形のからくり箱もありました。
根本的に凝る場所が日本人とは違うようです。

参加者のお一人が「写真を撮っても良いですか?」と質問され、OKが出たので
私も慌てて写真を撮り始めました。
白樺の樹皮を曲げて作った容器。
久津輪さんも買いたいと思ったものの、
予想外に値段が高く断念したそうです。

この切れ端の実物もありました、
2枚の樹皮を張り合わせるそうですが、
どことなくレザーのような感じがなんとも不思議です。

いかにも北欧ぽく見えるこの白樺の樹皮ですが、
実は業者からロシア産のものを購入していて、
3年くらい前からそれが入らなくなったので、
今はラトビアから輸入しているのでで、
値段が高くなるのも仕方ないようです。

スウェーデンを代表する木彫作家

こちらが作品集です。
日本でも、長野で作られていた農民美術人形をはじめ、
国内外の多くの人に影響を与えているそうです。

そして、スウェーデンといえばスウェーデン鋼の刃物も有名です。
お洒落な看板を掲げる現地の鍛冶屋、Hans Karlssonさんの工房。
歓待の意を表する日の丸は手持ちのものがなく、
工房主がシーツを使って自作されたものだそうです。

方向をつけ間違えてしまった手斧を持ってご愛嬌です。


ここでは5人の職人がノミだけで600種類も作っており、
それが入っている棚がこれです。
(この棚欲しい)

岐阜県立森林文化アカデミーでは
一般の方も参加可能なさまざまなイベントが企画されているそうなので、
今後はこまめに予定をチェックせねばなりません。
(もちろん、正規学生も募集していますよ!)
http://www.forest.ac.jp/events/
http://www.forest.ac.jp/about/access/

岐阜県立森林文化アカデミー
〒501-3714岐阜県美濃市曽代88


               

2016年9月19日月曜日

藍とハブ茶

1月のインド、カッチのAjrakh工房の訪問時に、
現地での藍染めに、Cassia toraという植物の種を
ハイドロの代わりの還元剤として使うというのを教えてもらっていました。

Cassia toraとは何かと調べたら決明子(ケツメイシ)で、
日本にも自生していて、ハブ草のかわりにハブ茶として売られているとあり、
買うべきか、それとも野原で探すか、
しかし、植物本体がわからないから探しようがない。
市販のハブ茶はきっと炒ってあるだろうし、
生じゃないとダメかもしれない。
藍が収穫できてからちゃんと使い方を聞いてからにしよう、と思っていたある日、
父親が突然、
「あれ、ハブ茶らしいぞ」と。

実は今年、畑の茄子とトマトの間に謎の植物が生えてきていまして、
父親は、私か妹が何かの豆を勝手に蒔いたと思い、
普通なら抜いちゃうところを、抜かないでおいていたらしいのです。

父は知らない植物は根こそぎ抜く癖があり、これまで何度も貴重な種をダメにされ、
その都度激怒していたのがやっと効いてきたようです。

父の同級生がたまに畑に遊びに来ていて、
この謎の植物を見て、これはハブ茶だと教えてくれたのだそうです。

うちではこれまでハブ茶なんてものは飲んだこともなく、
なぜここに突然生えてきたのか、父も私も全く思い当たりません。
鳥の糞に混じっていたんじゃないか?ということにしましたが、
なんという奇跡でしょう!
必要な時に必要なものは手に入るんですね。

ここで、インドのAjrakhのSufiyanさんにメールして、
Cassia tora seedsの使い方を教えてもらいました。

Sufiyanさんの工房での処方は、

1 kg indigo cake  (藍錠 1kg)
300 grams Cassia tora seeds ground into powder farm  (決明子の粉末 300g)
300 gram lime powder  (石灰粉末  300g)
300 gram date juice   (ナツメヤシのジュース 300g)

First we prepare indigo solution my mixing indigo cake with water. 
Then add lime. Keep this mixture for a day. 

「まず、藍錠を水に溶かし、石灰を混ぜて1日置く。」

On second day add Casia tora seed powder to the above solution and keep it for a day

「翌日、決明子の粉を混ぜ、1日置く」

Then on third day add date juice. 
Then leave the solution for 3-4 days and stir it every day once. 

「3日目、ナツメヤシのジュースを加え、1日一度混ぜて3−4日置く」

というものです。

日本では乾燥デーツしか入手できないので、それでジュースを作るか、
代わりになるものはないか考えてみます。

もちろん、1/10くらいの量で実験ですね。

今年は巨大なヒマワリが育ち、大量に種もとれたので、
冬になったら決明子を持ってきてくれた鳥にお礼ができそうです。


新・東京スピニングパーティー2016

今年から会場が錦糸町に変わって開催された新・東京スピニングパーティー
年に一度、羊毛、絹、綿、麻や染織素材など
日本全国の天然繊維関係の業者さんのブースが集まり、販売が行われるほか、
レクチャーやワークショップが行われるイベントです。

いくらインターネットが普及しても、
微妙な繊維の違いなどは、現物を触ってみなければわかりませんので、
製作者には貴重な機会です。
入場料が1,000円もかかるにもかかわらず、
以前の浅草橋の会場は、身動きすら取れなかったくらいで、
今年の会場ではかなり余裕を持って歩けるようになっていました。


しかし、初日の午前中で既にこの勢い。
開場前には行列もできていたそうで、
他人のことは言えませんが、皆さん、熱心です。

とにかく来たら何か買わずにいられなくなってしまうので、
自分のような人間にはほんとうに危険な場所でもありますが、
逆に、小規模店舗を構える店など
わざわざ行っても欲しいものがなく徒労に終わることもありますから、
どっちもどっちでしょうか。

珍しい天蚕の繭をほぐしたもの。
鮮やかな緑色は、繭をほぐす際に抜けてしまうもともとの色を
ある方法で戻しているのだそうです。

また、中国の柞蚕繭を爆発させた「爆砕柞蚕」は、
爆発によりセリシンが取れているそうで、とても美しいツヤがありました。
こういったものは量も少なく、こういう場所でなければ見ることすらできません。

今回の目的の一つは、ラオスの葛糸作りワークショップでした。
葛繊維というと日本では大井川葛布が有名ですが、
大井川の方法は、葛蔓を発酵させるために匂いが半端ないと噂に聞いており、
ラオスは、蔓を乾燥させて、そこから靭皮繊維を削り出すと聞いたため、
ぜひ、その方法を知りたいと思ったのです。

ラオスのカム族が葛糸で作ったバッグです。
細かい編みです。

これがラオスの葛糸と、白く見えるのが葛糸を作る繊維部分です。
自分も葛糸を作ろうと、蔓を乾燥させたものの、
その後の作業がかなり大変で挫折しておりましたが、
ワークショップではここまで加工済みのものを使っての作業でした。

簡単に方法を説明すると、蔓の中の靭皮繊維を適当な太さに裂き、
それを生足の上でよりをかけ、
さらに2本どりでよりをかけて繋いでいくというものです。
決して見栄えのよくない足を公衆に晒しながら、ひたすらよりをかけ続けましたが、
コツは、最初に繊維を細く均一に裂き、
それによりをかけたものを大量に作っておくことです。
葛の繊維の長さは、葉が着いている節まで、
長くても30センチくらいしかありませんので、
かなり頻繁につなぐ必要があり、
この点が麻や苧麻繊維とは異なります。
おかげで作業後はスネ毛がかなりなくなっておりました(笑)

他にも面白いものがいろいろ。奥にあるファイという木の樹皮で煮染めした後、
泥媒染すると、このようなきれいなグレーになるようです。

インドネシアの腰機での織りの実演に

ブータンの片面縫取織りの実演。

もう一つ参加したかった大麻の糸作りワークショップは
500円でできるとあり大盛況で、順番待ちで断念。

1000円で販売されていた紐作りセットを買いましたが、
糸と紐の作り方は違い、これは糸を作る工程だそうです。
う〜ん、残念です。

もう一軒、こういうイベントでしか小売をしない
珍しい植物繊維を扱う西銘商事さんのブースです。

イラクサ糸、雁皮糸、紙糸、
タイのヘンプ(大麻)、葛、大麻

真ん中は芭蕉布、横は苧麻布。

そして、蓮布!お値段も一桁違う!
ミャンマー産の糸をカンボジアで織ったそうです。
他の繊維にはないなんとも言えないしっとりとした手触りで、
無意識に触っていたらお店の人に横に避けられてしまいました(苦笑)
手垢をつけてしまい大変申し訳ありませんでした。

ちなみに、会場に入る手前には墨田区の産業の展示がされていました。
切子ガラス、皮革、漆器、鼈甲、人形、木工などなどの工芸品の他、
金型や光学製品などの工業製品も並んでおり、
下町墨田区の産業の一端を知ることができました。

2016年9月4日日曜日

タサール研究訓練センター

我々が普段目にする絹は、
カイコガ(Bombyx mori)の繭から作られますが、
その他の蛾の繭からも絹糸がつくられています。
人により改良が繰り返され家畜化し、
野生では生き延びることができなくなった蚕は
「家蚕(かさん)」と呼ばれるようになりましたが、
それと違い、自然の中でも育つ蚕は
「野蚕(やさん)」と言われます。

日本にも「ヤママユガ(Antheraea yamamai)」や
「クスサン(Caligula japonica)」など数種の野蚕が生息していますが、
希少でほとんど見かける機会はありませんが、
インドや中国では、野蚕もそれぞれの特色を生かして利用されています。

政府に「染織省」があるインドには、
アッサムに"Central Muga Eri Research & Training Institute"
という、ムガ蚕(Antheraea assamensis)とエリ蚕(Samia cynthia)、

ジャールカンドのラーンチには
"Central Tasar Research and Training Institute"
という、タサール蚕(Antheraea mylitta)研究と訓練の専門施設があります。

この研究所は1964年に創設され、
現在40人の科学者がおり、
養殖と加工技術を農民に指導しているのだそうです。
道路を挟んで、研究所と農園があります。
これは研究所の建物です。

タサール絹の製造工程の絵の前にいるのが所長さんです。
所長さんのご案内で、まずは農園から見学となりました。

こちらが農園側入り口です。

入ってすぐの場所には、タサール蚕の餌になる木の苗がたくさん準備されていました。
これらが分類されて農園に植えられます。

きれいに並んで植えられています。
(下の方に塗られた白色は石灰を含んだシロアリ防除薬です)

カイコガは桑の葉しか食べませんが、
タサール蚕は何種類もの木の葉を食べます。
これ以外にも沙羅双樹(Shorea robusta)など
餌になる木はたくさんあるようですが、
主力はTerminalia arjunaとTerminalia tomentosaの2種。
この2種のうち、arjunaは葉が細長く
tomentosaは葉が広いということで容易に区別がつきます。
ということで、T. tomentosaで育つタサール蚕を見せていただきました。

この場所には、鳥などの被害を防ぐためネットがかけられています。
え、これで野蚕っていうの?と言われてしまうかもしれませんが、
家蚕のように日に何度も桑の葉を取ってきて与えるという手間がなく
木につけて放っておけばいいから"Wild"なんだそうです。

これが繭を作りだす準備に入ったタサール蚕です。
どこにいるかわかりますか?










ゆうに10センチ。

あちこちにこんな大きな繭がぶら下がっています。

繭の作り始めはこんな感じで、葉っぱの陰でわかりません。

タサール蚕は、年に3度のライフサイクルを繰り返すそうで、
最短は6~8月の間で、35日で成虫になり、
次は8~10月の間は45日間
冬は気温が下がり、餌の葉も少なくなるため、
70~120日で成虫になるのだそうです。
気温が低くなりすぎたり、湿度が高くなりすぎるといけないらしいので
そのため、生育地域が限られるようです。

さて、研究棟に戻ります。
見本のため、蓋を切って蛹が取り出されていますが、
様々な大きさの繭があります。
これら、それぞれが違う種類のタサール蚕だそうです。
これが一覧表。
糸の長さなどそれぞれ異なるようです。

この柄の部分も、ちゃんと糸になるんですよ。

隣の部屋では、加工が行われていました。
繭から糸を引き出しています。
最新の機械だけでなく、
昔ながらの手回しの糸繰り器もあります。
生糸と
紬糸。
紬糸はこんな機械で作られるようです。

タサール絹は独特の美しいツヤがあり、
王族の衣装としても使われてきました。

そして、あの繭の柄の部分は

まずは、水につけて柔らかくした後、
石の上で叩いてほぐしておきます。

そして次に、こんな機械を使ってさらにほぐします。

ほぐした糸はカード機にかけられ、

紡いでギッチャ糸にされます。

そして、織機にかけられ、

さまざまな製品になります。

ラックのインド最大の産地、
つまり世界最大産地のラーンチですから、
この地元産の2つの素材を使った製品が作られればいいのに、と思っていましたが、
やはり既に作られていました。

この他、絹のセリシンを使っての化粧品や薬など
科学的利用の研究もされているそうです。

この日は、限られた時間の訪問だったため駆け足の見学で、
是非また、日本から人を連れて十分な時間を取って来るように、
もし来るなら、繭を採取し、糸を引き織物にするまでの訓練工程が見られる
7月から8月の雨期の頃が良いと言われました。
訪問を検討されている方のご参考までに。
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この調査は科研費の助成により行われました。