2014年4月23日水曜日

漆の種の脱蝋方法

うちの漆の若芽は、数日の雨の後もぐんぐん生長中ですが、
日本最大の漆産地、岩手県浄法寺ではまだまだこれからです。
浄法寺あたりではいつも連休ごろに桜が咲き、
その少し前くらいが漆の種のまき時だそうです。

 2年前のものですが、これが漆の実のついた房です(下の目盛は1センチ角)

皮の下に白い蠟分があり、その中に瓢箪形の種がひとつづつ入っています。
(右下2つ)

漆の種は、そのまま蒔いてもなかなか芽が出ません。
種の皮が固いことと、蝋分のためです。
漆苗を育てるには種蒔き前に脱蝋処理というものを行います。

以下は、2012年の5月に、日本文化財漆協会の研修で、
浄法寺の漆掻き、大森清太郎さんから教えていただいた脱蝋方法です。

蝋は実の1/3 くらい含まれており、
10 キロの実から水に浮く種も取り除くと、種まきに使える種の量は半分以下になる。
漆の実は、前年漆がよく取れた木のものを使う。
漆掻きを終えた木を切り倒した後、9 月20 日頃に採取し、
天日で干しておいたものを使った。
木を切り倒した後に枝から実を採る方が楽で早い。
 あらかじめ実の表皮と蝋の粉を取り除いた実1 に対して木灰1を加え、
大きめの缶の中で混ぜる。
(大森さんの使われる灰は、漆を掻いた後に切り倒した木を
薪ストーブで焚いた後のものを使われているという見事なリサイクル!)

85 度くらいのお湯と冷水を用意しておく。

お湯を灰と混ぜた種を入れた缶に注ぎ、底からよく混ぜた後
すぐに水を注いで冷やす。
種が煮えないようにするためにこの作業は手早く行う)

浮いた種は実が入っていないので、穴あきお玉で掬って捨てる。

灰と蝋の混じったお湯は畑に流し、底に沈んだ種は網に入れて水洗いする。

さらに網を使ってごしごし擦る。
保存する場合は水を切り風通しの良い場所で乾燥させるが、
蒔く場合はその後1週間から10日ほど水に浸ける。

小さくてわかりづらいですが、種を半分に切った様子です。
左が沈んだ種、右が浮いた種です。

現在、漆苗を作る方のほとんどが硫酸を使った脱蝋処理をされます。
灰はアルカリ、硫酸は酸という真逆で不思議だなと思いました。
熱した灰水は蠟を鹸化し(石鹸を作るのと同じ)水溶性にし
水と一緒に流すことになりますが、
硫酸は鹸化せず、強酸の力で蠟を一気に焼き切ってしまうようです。
(その後、水を加えて捨てるそうです)

硫酸は劇薬ですから、もちろん購入手続きも煩雑な上、
取り扱いにも細心の注意が必要ですが、
硫酸で脱蝋処理をした種は一気に発芽するので、
その後の移植作業も楽なのだそうです。
それに比べ、熱湯処理の場合は、秋まで発芽の時期がまちまちになるということで、
この年、同じ日に硫酸処理と熱湯処理の種を別々に苗床に蒔いて、
発芽状態を比較する実験も行われました。
確かに数ヶ月は熱湯処理の発芽にばらつきが見られたものの、
年末までには生長が追いついており、これには大森さんも驚かれておられました。

硫酸は濃硫酸を使い、10 分、15 分、20 分程度浸して水で洗い流す。
この場合は蝋が焼けたように黒くなる。
濃硫酸は農協を通じて購入する。
漆の実から表皮と蝋を取り除くのには、戦前の低速の古い精米器を使うのが良い。

会津若松で漆苗を生産されていた初瀬川ウメさんの手記では、
実を擦って蠟の粉を落とした後の種を尿に暫く浸けておく(!)
という方法が書かれていました。
どちらにしても、なるだけ危険を伴わず、
環境を汚染することなく、逆に畑を肥やすという方法は理想的だと思いました。

種の蒔き方については次回またご説明します。

徳島の阿波漆の漆掻き、十鳥弓枝さんのブログには、
さらに手軽な脱蝋方法が書かれています。

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